ピックアップテーマ
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食品業の現状と今後の動向から探る品質管理体制のあり方
昨今、食品の安全性ならびに調合原料や添加物の品質管理体制等が、社会問題として大きな関心を呼んでいます。プロセス業全体が大きく変化していく中で、特に食品業界では従来の環境に向けての動きから品質そして安全性の向上が消費者に強く求められています。
- プロフィール
日本電気株式会社
NECソリューションズ コンサルティング事業部
ビジネスコンサルティング グループエキスパート
河合 晋(NSCPビジネスコンサルタント)1990年、外資系コンサルティングファーム入社。主に、食品業含む消費財メーカーや卸売・小売業、製薬メーカー、ハイテク業において、戦略コンサルティングからERP導入含むSCM、CRM、HRM領域でのコンサルティング経験を有する。製造業・流通業の担当マネジャーを経て、2002年10月より現職。
食品産業の概況

日本電気株式会社
NECソリューションズ
コンサルティング事業部
ビジネスコンサルティンググループ
エキスパート
河合 晋 様
(NSCPビジネスコンサルタント)
食品製造業、食品流通業、および外食産業からなる食品産業は、農水産業と消費者の中間に位置しています。食料の生産から消費に至る各段階において食品の品質と安全性を保ちつつ、安定的かつ効率的に消費者に供給する一方、消費者ニーズを生産者に伝えるという重要な役割を担っています。いわば、農場と食卓、農村と都市の架け橋であるといえるでしょう。
農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」によると、1999年度の農業・食料関連産業の国内総生産は53兆5,199億円で、全産業514兆円 3,487億円の10.4%を占める「1割産業」となっています。その中でも、食の外部化・サービス化、流通の広域化などの進展を反映して、農水産業の占める割合が相対的に低下しています。一方で、関連製造業(食品工業および資材供給産業)、飲食店および関連流通業(商業および運輸業)などの食品産業に占める割合が高まる傾向が続いています。
従業者数でみても、経済産業省「商業統計調査」によれば、1999年において食品製造業の従業者数は123万1千人です。製造業全体の13.1%、飲食料品卸売業は102万人で卸売業全体の22.7%、食料品小売業は311万4千人で小売業全体の33.8%を占めており、雇用の面においても食品産業は重要な位置を占めています。
近年のデフレ傾向と外食産業を起点とする企業間競争の激化
食品産業は、これまで食の外部化などの進展を背景として成長を続けてきました。しかし、日本経済の長期にわたる停滞のもと、近年3年程度デフレの状態にあるなかで、日本の国内総生産(GDP)の5~6割を占める個人消費支出が低調に推移しています。また、家計費全体における食料消費の位置付けが低下していることもあり、これまで堅調な伸びを続けてきた一般外食への支出が減少に転じるなどの動きがみられます。このような傾向にともない、飲食料の最終消費額の約3割を占める外食産業の市場規模(売上高)も、1997年の29兆743億円をピークに以降縮小気味にあります(総務省「家計調査」、財団法人外食産業総合調査研究センター調査資料などより)。
こうした中で、外食産業における企業間の競争が激化しており、業界各社の人件費や仕入れコストなどの削減努力は、食材の流通・生産段階にまで影響してきています。社団法人日本フードサービス協会「外食産業経営動向調査」によれば、外食企業が重視する物流・仕入面での施策を経年的にみると、「従来の食材仕入ルートの見直し」を挙げる企業が年々増加しています。外食産業における価格競争の激化は、単なる食材単価の引下げにとどまらず、より安価な食材を提供する新たな仕入先を求める動きとなっています。
消費者の生活スタイルの変化に対応した食品小売業の変化と食品流通経路の多様化
現代の日本において、飲食料の最終消費額の約7割を占める食品小売業を取り巻く環境をみてみましょう。女性の社会進出、単身世帯の増加や高齢化の進行などを背景とした消費者の簡便化志向の高まり、モータリゼーションによる商圏の拡大、小規模店舗における後継者不足など様々な変化が生じています。
このような中で、経済産業省「商業統計調査」による食品小売業の変化を店舗の業態別にみると、店舗数が全体として減少傾向にあります。ところが、食料品スーパー(専門スーパー)、コンビニエンス・ストアの店舗数が増加しており、年間販売額でみても、これらの業態の占めるシェアが拡大しています。一方、従来型の食料品専門店、食料品中心店は、店舗数、年間販売額ともに減少しています。
また、近年の消費者ニーズの多様化、大規模小売店舗の増加、産地の大型化などの変化を背景として、食品の流通経路は多様化してきています。例えば、生協や農協などによる産直の取組み、産地と大型ユーザーとの直接取引、インターネットを利用した取引などの動きがみられます。
食品産業と農水産業の連携推進が必要
近年の国産食用農水産物の3~4割は、加工や外食などの食品産業に仕向けられています。しかし、国内農水産業は生鮮志向が強く、必ずしも需要に応えきれていない面があります。加えて、食品産業は、低価格や数量、品質の安定性を求める姿勢が厳しいことも相まって、輸入食材への依存を強めています。前述のような近年のデフレ傾向の中で、その傾向は一層強まっています(農林漁業金融公庫「食品産業動向調査」<2001年6月調査>より)。
一方において、近年、消費者の鮮度志向や安全・健康志向などを背景として、付加価値の高い国産農水産物に対する潜在的需要は高まっています。こうした中で、今後、食品産業と農水産業の連携の推進がより重要となるでしょう。国内農水産業が業務用需要に的確に対応し、安定的供給を図ることが、食品産業にとっては、価格競争以外での商品の差別優位化・高付加価値化を可能とし、国内農水産業にとっては、需要を拡大する取組みとなるためです。例えば、食品産業による農水産業生産法人への出資を通じた連携などの取組みがみられます。これを一つの契機として、将来的には、業界再編を加速させる動きも現れてくることでしょう。
ITを活用した食品流通の合理化
良質な食料品の合理的な価格形成を考える上で、食品加工・流通部門のコスト低減は重要な課題となっています。
流通コストの削減については、多頻度小口配送が納入業者の作業量・時間の増大、トラックの積載効率の低下などから流通コストの上昇を招いているなどの問題が指摘されています。これに対応して、ITによる在庫量・所在などの正確な把握、配送の共同化・集約化などを通じた積載効率の向上、および計画的配送の実現などの取組みが進められています。
また、大手外食企業などを中心に、インターネット上のBtoBサイトを利用して市場を介さずに直接食材を調達する取引が普及しはじめています。この BtoBには、買い手である企業一社と多数の売り手が参加する「プライベート型」と呼ばれるタイプや、多数の売り手と多数の買い手が参加する「オープン型」など、多様な取引形態があります。流通の効率化や農水産業と食品産業の連携を実現する可能性をもつ新たな取引形態として注目されています。これらの方式が本格的に広まるためには、売り手、買い手が安心して参加できる決済システムや小口参加者にとっても効率的な物流システムの構築が課題となります。
食の安全性確保への取組み強化とトレーサビリティー・システム
2001年9月、日本で初めてBSE(牛海綿状脳症)に感染した乳用牛が確認されました。これを契機に消費者の食品の安全性に対する信頼が大きく揺らぎ、牛肉消費の減退などを招きました。以前にも増して、安全で安心な食料の安定供給への国民的要請が強まっているとともに、日本における畜産・食品衛生行政のあり方も含めて、食の安全性確保が今後の大きな課題となりました。また、2002年1月以降、食品の表示について信頼を損なう事件が次々と発覚し、関係者は従来の取組みの見直しを迫られています。安全で安心な食品を供給するためには、生産から消費に至る各段階間での連携・協力、および一貫した安全性の確保が必要となります。
こうした中で、食品事故発生時の追跡調査や回収を可能にする、あるいは生産情報などを提供して消費者と生産者の「顔の見える関係」を確立し、消費者の信頼確保を図ることが求められています。その観点から、ITの活用などにより食品などの生産段階(生産者の氏名、生産方式など)、流通・加工段階(運搬方式、運搬日数など)、販売段階(納入日時、販売店名など)に関する情報を製品に付して、食品の履歴情報を遡及して確認可能とする「トレーサビリティー・システム」に大きな期待が寄せられています。同システム導入に向けて各企業による取組みが進められています。
国内外における取組みを比較してみると、欧州では、食品安全行政再編の基本的な考え方の一つとして、「農場から食卓まで」を対象とした牛および牛肉を中心に取り組まれています。一方、日本では一部民間企業などにおいて独自に実施されているのが現状です。例えば、カルピスが2002年6月に稼動させた商品追跡システムは、製造・物流工程において、特定の商品の状況を管理する仕組みです。不良品の発生といった事態に対処する専門部署も設置し、被害を最小限に食い止め、危機対応を迅速化するようにしています(日経情報ストラテジー2002年11月号より)。このように、製造ミスなどによる被害を最小限に食い止める仕組みや、未然に防止しようとする仕組み作りも併せて必要となるでしょう。
一部の企業が独自にトレーサビリティー・システムの構築・導入に取組むだけでは、消費者からの信頼を取り戻すには限界があります。同システムの本格的な実施のためには、生産・加工段階におけるIT化の積極的な推進と、生産から消費に至る各段階における履歴情報などの蓄積・流通の促進を図ることが必要です。同時に、消費段階における各種情報の意義および内容の十分な理解と、消費者による合理的な選択を助ける知識の普及が重要となります。そのためには、法制面の整備など含めた行政主導による仕組みづくりも必要であり、農水省が中小の流通業者が販売する食肉でも消費者が産地や品種を把握できるような制度、データベース(「家畜個体識別全国データベース」)づくりに取り組み始めているように一部その動きがみられます。
食品産業における各企業にとっては、「満足」「感動」というような消費者価値レベルへの到達以前の課題である、食の「安全/安心」を確保していることそのものが、価格競争以外での商品の差別優位化・高付加価値化を可能にする時期にあるともいえます。食の「安全/安心」の確保とその認知度を向上させることが、企業イメージを向上させ、ブランドを構築、あるいは再構築していく手段の一つに他ならないのです。このように、トレーサビリティー・システムの構築・導入などにより、消費者と企業間の食の「安全/安心」に関する情報の非対称性を可能な限り是正することは、別の面においても、各企業にとって重要な経営課題であると認識すべきです。俯瞰すると、今は、「プロダクト」のイノベーションもさることながら「ビジネス・システム」のイノベーションがより求められている時期であるともいえるでしょう。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)で品質チェーン複雑化
1998年頃から、SCMは製造業における経営革新の中核テーマとして大いに注目され、新聞、雑誌等各種メディアは特集を組み、関連するセミナーも数多く開催されました。『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)の中で議論されているように、「Make Money(金儲け)」「キャッシュ・フローを上げる」ことが「会社のゴール」といえます。そのゴール到達に向けたSCMの基本的なコンセプトは、市場のニーズに忠実に、かつ遅滞無く製品の供給を行い、そのためにロスのない調達・生産を行うものと認識されてきました。
そのため、見込生産が前提で、複雑な供給網を持ち、製品・資材の在庫コントロールに苦労してきた食品製造業からは、特に注目されたのです。多くの企業がプロジェクトを発足、SCMの検討を開始し、大手企業を中心にいくつかの企業が、1999年中頃をピークにSCMシステムを構築・導入してきました。前述の食品の安全性に対する信頼を大きく揺らがせる事件は、特に人の命、健康に関わる食品産業において、この流行言葉の陰で、食の「安全/安心」という、いわば最も基本的な「品質」がおろそかになっていなかったであろうかと警鐘を鳴らしていると受け止めるべきです。
「品質チェーンを切るな」ということは、食品産業だけではなく他産業にも言えることです。例えば、2002年9月、日本経済新聞などに掲載された富士通製のパソコン用ハードディスク駆動装置(HDD)の一部に不具合が発生した問題は、未だ記憶に新しいことでしょう。このHDDを組み込んだパソコンメーカーが交換作業に追われ、富士通が最終的に負担する金額は100億円規模との見方も上がっているようです。実は、他の電子製品でも似たような不具合が起きる可能性が出てきて、大きな問題に発展するかもしれないという指摘があります(日経ビジネス2002年9月30日号)。
「かつてはパソコンメーカーが内部の組み込み部品や半導体も作っており、我々は最終的な製品仕様などを十分心得ている人を相手にしていた。今は品質チェーンが我々のところまではつながっていない」という電子部品材料供給メーカーの言い分はある側面を言い当てています。それは、企業活動の分業の進行によって間に入る企業の数が増加するにつれ、品質保証の難しさも増していくということです。サプライチェーン上の各プレイヤー企業にとって、自社周辺の情報しか分からなくなっているという事実です。
SCMという流行言葉の陰で、最も基本的な「品質」がおろそかになっていなかったでしょうか。この問題は、止めどなく進む企業活動のオープン化、ネットワーク化の流れに対する警告として受け止めるべきです。特に食品産業においては、トレーサビリティー・システム導入への取組みといった品質管理チェーンまでを視野に入れてSCMの再点検、見直しを進めることがより重要となるでしょう。
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