対談・座談会
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不測の事態や脅威においても事業を継続する経営戦略・情報戦略とは

事業継続(BC:Business Continuity)は、大企業のみならず中堅・中小企業の経営課題になりつつある。それは新潟県中越地震でも明らかになったように、災害などでサプライチェーンの一角を担う中堅・中小企業の事業が止まったとき、サプライチェーン全体がストップするリスクがあり、社会的な影響も甚大になるからだ。今や事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)は売上の損失防止だけでなく企業の社会的責任として、経営者が真剣に取り組むべき経営課題となってきた。そこで、BCM専門家であるインターリスク総研の篠原雅道氏とNECソフトの横山淳とで、どこから事業継続への取り組みを行ったらよいのか、対談を通じて明らかにしてもらった。
- プロフィール
篠原 雅道
Masamichi Shinohara1996年11月、三井住友海上火災保険からインターリスク総研に移籍。通産省の地球環境問題委託調査研究や欧米のリスクマネジメントに関する業務に従事。1997年から同社ロンドン事務所長。2002年7月、インターリスク総研企業リスク部に移籍し、事業継続経営(BCM)の調査・研究、コンサルティングに従事。BCI日本支部代表に就任し、またBCIジャパンアライアンスを設立するなど、BCMの普及・啓発を行う。経済産業省、内閣府など政府・官公庁の委員を務める。『事故前提社会における企業のBCM』(日本規格協会「標準化と品質管理」)や『事業継続管理のための指針』(日本規格協会監修)など著書多数。
横山 淳
Kiyoshi Yokoyama1979年早稲田大学大学院卒業、NEC に入社。主に、流通業向けの販売促進業務に従事。特に、汎用端末・流通端末の製品企画・販売促進を中心に活動。1992年に、当時のNECソフトウェア新潟に出向し、新潟県内の小売業・サービス業のシステム開発・サポートを統括。2002年にNECソフトに移籍。2003年4月新設されたコンサルティング事業部に異動し、ビジネスコンサルGを統括。現在は、営業本部本部長代理として、SIにつなげるコンサルティングビジネスを推進中。
経営戦略になったBCM
篠原:
今、BCMが経営戦略になりつつある理由の一つに、サプライチェーンという視点があります。サプライチェーンの中の企業はたくさんあり、しかも全世界的に緻密化しているので、災害などで事業が止まったとき、サプライチェーン全体がストップする危険があります。その影響は世界に拡大していく。
こうしたことを受けて、欧米では当たり前になっていますが、BCMが取引先の選別基準になってきています。さらに、進んだ企業はBCMを差別化に使い、「うちと取り引きすれば、供給責任は果たせますよ」という言い方をしています。また、「他社はやっていませんね、もしもの場合は供給責任を果たせないじゃないですか」というわけです。
さらに、これは内閣府でも謳われているのですが、企業価値向上という視点です。BCMを実施している企業は、当然ながらマーケットや取引先から評価されるべきであるということです。実際私どもが提携しているイギリスの会社の調査によると、BCMをやっている企業とやっていない企業の価値は異なります。 BCMを実施している企業は長期的に見て企業価値が上がっており、やっていない企業は下がっています。
日本企業も、こうした全世界的な流れや、企業価値をどう高めていくかという観点で、BCMに取り組む必要があります。経営者は戦略として取り組んでいかなければならないという気風が出来上がってきたという状況です。横山:
日本では阪神淡路大震災以来だと思いますが、経営管理、リスク管理が経営戦略の中の一つの要素になってきました。また、アメリカの9.11テロの発生からは、いつ何時何が起こるかわからないという不安もあります。特に最近、自然災害だけではなくて、予測できない事態も多く起きています。
不測の事態が起きて、業務が止まったときにサプライチェーンの一部でボトルネックになり、何日も業務が止まってしまったら売り上げの機会を損失してしまいます。そして社会に及ぼす影響も甚大になります。それこそ、社長が頭を下げて企業の信頼を戻す必要があります。そういう危機感からか、特に日本の大手企業は、経営戦略の一部として取り組みだしているなという感触を、実際にお客さまに会っていると受けます。篠原:
BCMは元々ITから出てきたものです。ノンストップオペレーションという形で、どのようにシステムを継続していくかがITの考え方です。現代は ITの上にビジネスが乗っているため、ITがストップしてしまうと、ビジネス全体が影響を被ってしまいます。ITは非常に重要な戦略として認識しなければなりません。
不測の事態と言われましたが、最近でいうと鳥インフルエンザがあります。ニュージーランドの経済産業省は、鳥インフルエンザが企業で発生した場合、どのように事業を継続すればいいかという事業継続のガイドラインを出しています。そういった意味で不測の事態にどうやって対処していくかが重要です。
日本の場合、地震のリスクが非常に高く、また金融システムに見られるようにITリスクも高い。それに加えて、今後様々なリスクが発生してくる。そういったことを考えて包括的に対策を施すのがBCMです。横山:
不測の事態に関して、BCMという言葉の中には危機や災害という言葉はありません。以前は「災害対策(ディザスタリカバリ)」という言葉をずっと使っていました。今、「事業継続」という言葉になってきたのは、予測できない災害が多く、災害の種類をトリガーに考えていたらそれ以外のことが発生したときに何も対策がとれないからです。
トリガーは何でもいいのですが、業務のある部分が寸断されたときにどうするか、あるいは社員が倒れて会社に来られなくなったときにどうするかというような考え方をします。災害の種類はどうでもいいのです。業務の中のあるプロセスが切れたときにどうするかということに対して、分析したり計画したりするのが「事業継続」になってきていると思います。BCMの取り組みは経営者の意識と投資コストのバランス
篠原:
これまで、BCMに取り組んでいる企業には2つのタイプがありました。リスクや世界の動きに敏感な経営者のいる企業は自ら積極的にBCMに取り組んでいます。そして、取引先から要望を受けて取り組むという企業です。ただ最近は、BCMを一つの企業文化として従業員に根付かせたいという会社もあります。経営者自ら率先して旗を振って、従業員にどんどん文化としてBCMを定着させていく。これは新しい流れです。
またコスト面では、身の丈にあったところから始めるのが現実的です。売上高10億円くらいの企業が、何億円もかけて取り組むのは難しいでしょう。やはり、その企業の背丈にあった形で進んでいくのが重要です。
そしてもう一つのポイントは、取引先から自社の位置づけはどうかという点です。自分のところの製品が供給できなくなった場合、取引先に対するインパクトや社会的責任を総合的に勘案して取り組むことが必要です。小さな会社でも、インパクトが大きい場合があるからです。横山:
確かにどこまで投資するか、我々SIerとして、明確に出せればいいのですが難しいところです。一つの考え方として、これも手法の中にあるのですが、災害が発生したときにどこの時点まで戻すのかを考えることで投資額を予想することができます。極論すれば、1秒前までに戻れば一番いいのですが、そのためには無停止のシステムを作らなければいけないのですごくコストがかかります。
もう一つは、災害が発生した場合、何日間あるいは何時間くらい止まっていてもいいのかという点です。これは業種、業務、企業の規模によって違ってきます。ある程度お客さまと合意をとりながら、それに対してコストがどのくらいかかるか想定します。篠原:
まさにBCMは時間軸がものすごく大事です。一つは目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)、災害などが発生してからいつまでに事業を再開させるか。もう一つはシステムデータの復旧を観点として、いつまでのポイントに戻せばいいか。この2つを短くすればするほど、コストはかかってくる。一番コストがかからないのは、何もしない。その辺の考えをうまく出してあげて、企業にあったポイントを見つけてあげるということになると思います。横山:
目標復旧時間と目標復旧ポイント(RPO :Recovery Point Objective)が、BC手法の中の重要なキーワードですね。そこを明確にお客さんと合意をとりながら、それに対して投資をどこまでにするかというように考えていきます。篠原:
あともう一点、事業復旧の優先順位も大きなポイントです。例えば、製造業では災害後一斉に復旧することを前提にしたり、経験と勘で熟練工の方々が復旧に取り組んでいました。ただ、熟練工のノウハウを伝授できない状況が生まれています。また現実的に全体を一斉に復旧させるのは難しくなっています。そこで、どの事業から優先して復旧させていくのかを明確にしておくことが求められています。まず基幹事業を再開させるために、人やものをどのように投入していくか予め決めておくのも一つのBCMです。横山:
企業は多くの事業を展開していますが、本当のコアとなる事業を止めてはいけないわけです。その優先順位は、社内で合意をとっておかなければいけないのでしょうが、各事業の当事者は「なぜ私の担当事業はそんなに優先度が低いのか」と文句を言ってきます。篠原:
おっしゃる通りです。社内で優先順位をつけると、「自分が一番重要な業務をやっている」となるわけです。そこで、第三者的な会社が入っていく。そこをいかにうまく仕切っていくかというのがあります。そういう優先順位付けを実際に社内に開示している会社もありますが、開示していない会社もある。経営の観点から復旧すべき事業の優先順位を決めることはとても大切です。
中堅・中小企業におけるBCMの取り組み
篠原:
通常私どもが進める方法は、ビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis)とリスク分析です。ビジネスインパクト分析とは業務プロセス分析のことで、要は業務プロセス分析によって事業継続のためのボトルネックとなる重要な要素を発見します。
次に、特定したボトルネックを守るにはどうしたらいいかを考えます。さらに、ボトルネックが機能しなくなったらどうすればいいか、そこに対してリスク分析をしたらどうですかと提案します。BCMはボトルネックの分析、リスク分析から始まります。
これに加えて、組織の戦略や目的を伺います。例えば、「そもそも組織の目的は何か」、「作っている製品、サービスは何」で、「お客さまにいつまでに何を納入したらいいか」、「それを阻害する要因は何か」、「社内外関係者のBCM上の位置付けは」など。そこのところをうまくミックスしながら分析を進めていくという、進め方です。横山:
私どもも最近、ある手法に基づいてコンサルをやり始めています。NECグループは、世界トップクラスのBCコンサルとサポート実績を誇るアメリカのSunGard社と提携しています。
まずBCをどう進めるかという企画、次に重要なのがビジネスインパクト分析です。やはり組織の在り方、業務プロセスの大雑把な流れなどを分析しながら、本当に何かインパクトが起きたとき、災害が発生したときに、どのくらいの被害が想定されるかを予測します。
例えば、事業が1週間止まったら、売上はどのくらい減少するかを定量的に予測しながら、災害が起こったときの損失をできるだけ定量化することを、ビジネスインパクト分析の中でやるようにしています。篠原:
最近BCMに対する関心が高いということもありますが、経済産業省のBCガイドラインやISO化といった動きもあります。海外からのプレッシャーもある。 BCMをやっていかないと、将来のビジネスが先細りしてしまう可能性もある。さらに、中小企業庁でもBCMに関する委員会を立ち上げ、中堅、中小企業にいかにBCMに取り組んでもらうかということを考えているようです。そのためにインセンティブのような形を検討しています。
例えばBCMをやっている企業に貸出金利を安くするとか、災害時に即日融資をするなど、いろいろなインセンティブを検討しています。BCMは大企業だけではなくて、中堅・中小も巻き込んでいかなければならないと、政府・官公庁は啓発活動をしています。従業員10人以下の場合のBCMの作り方といったものもあります。横山:
NECソフトの事業の中核は、NECグループの中で中堅・中小企業、あるいは地方の企業に対してソリューションを提供していくことにあります。BC 関連のソリューションにしても、中核は中堅・中小企業の方々に対してご提供していこうというものです。大企業や行政からの指導や取引条件などの強制的な動きが出てくると、サプライチェーンの一角を占める中堅・中小企業もBCMに取り組まないとならないと考えて、我々は活動しています。篠原:
商工会議所も中堅・中小企業を集めてBCMのセミナーを開催しています。中堅・中小企業はビジネス自体が経営者にかなり依存しているため、災害対策も必要ですが後継者対策など人事面などでも検討が広がるかもしれません。中堅・中小企業は日本の国力維持のためにも非常に重要です。政府官公庁からも、かなり追い風が吹いていますので、今後かなり拡がってくると思います。身の丈に合ったスモールスタートのBCM
篠原:
まず、私どもがお勧めしているやり方は一つの基幹となる事業部門から始めることです。工場でも部門でも、機能でも結構です。そういったところを一つ抽出していただいて、そこでBCMを進める。そうすると、いきなりコストをかける必要もなくなります。一つのモデルケースを作るというのが重要です。
BCMは日本企業にとって、目標復旧時間や事業復旧の優先順位付けなど目新しい考え方が入っています。一つのモデルケースのBCMを構築する過程でも試行錯誤が生じてくることがあります。全社で一斉にやってもいいのですが、結局頓挫してしまうケースもあります。一つのモデルケースを作ることによって問題点を発見できます。そこができたら、他の部門に展開していくという進め方をしています。そうすると、先ほど言った企業の身の丈にあった形でどんどん進めていけると思います。横山:
大手コンサルファームはかなり長期的な提案をします。まず分析して、リカバリプランを作り、実際のリカバリとなると、コストも膨らみます。そこで、私どもがやっている方法は、とにかく企画や分析のフェーズだけでの提案です。どういう順番でBCをやっていくのか、まず企画だけしませんか、今度は分析だけしませんかということです。分析は重要な事業に絞ってやりましょうと提案しています。入口の敷居を低くして、一緒にやりませんか、次はこれをやりませんか、というような段階的なご提案をさせていただいています。
その先は、分析結果にもよりますが、ITのリカバリだけでは済みません。人の問題やファシリティの問題もある。地震がきてビルが倒れたときに、いくら人が集まっても仕事はできないからです。そのためNECソフトでは、施設の耐震診断など、オフィススペースの確保を考慮して、建設業との連携も行っています。
また、例えば人の問題に関しては安否確認システムがあります。これは私どもで実際に活用しているシステムであり販売もしています。安否確認では、地震が起きると、どの地区で起きたか、火災発生などの状況も社員の携帯電話に知らせてくれる。重要なのは、災害が起きたときに、「出社可能か」、次に「どのくらいの時間で出社可能か」を確認できることです。社内では時々リハーサルなどもやっています。篠原:
BCMにはいろいろな業種、例えばIT、コンサルティング会社、不動産会社、通信会社、建設会社などが入ってきています。リスクファイナンスという観点で損保も入っています。そういった意味で、産業界自体がBCに取り組んでいこうという盛り上がりを見せています。BCMの成功には幅広い視点が求められる。得意な領域を持つ会社が各々BCMに取り組んでいけばよいと考えています。横山:
NECソフトはSunGard社と提携していますので、上流のITコンサルに関してはNECグループでできるようになっています。ただし人数にも制約がありますので、篠原さんのようなリスクマネジメント専門のコンサルファーム様に上流をやっていただいて、IT構築は私どもでやるというフォーメーションもあるかもしれません。
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