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ワールドワイドな政府調達からミッションクリティカルな分野にまで拡大・深化するオープンソースシステムの活用

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独立行政法人情報処理推進機構オープンソースソフトウェア・センター 田代秀一氏、NECソフト株式会社 鈴木敦夫

ミッションクリティカルな分野でも使えるようになったオープンソースへの期待が高まっている。
そこで、オープンソースソフトウェア・センターの田代秀一センター長とNECソフトでオープンソースビジネスを推進している鈴木敦夫とで、オープンソースの現状と企業や産業界へのインパクト、オープンソース活用のポイント、今後の課題などを語りあった。

プロフィール

田代 秀一
TASHIRO SHUICHI

1987年 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2001年、独立行政法人産業技術総合研究所へ組織変更。2002年4月~2005年3月、経済産業省商務情報政策局情報処理振興課課長補佐を兼務。2006年1月より独立行政法人情報処理推進機構オープンソースソフトウェア・センター センター長。

鈴木 敦夫
SUZUKI ATSUO

1980年、日本電気ソフトウェア株式会社(現NECソフト株式会社)入社。1999年からNECグループのLinux関連ビジネスの立ち上げに参画。現在、ITシステム事業部 事業部長のほかVALWAYテクノロジーセンターオープンソースシニアエキスパートを兼務しオープンソースプロジェクトを担当。特定非営利活動法人LPI-Japan理事。OSDL SI Forumリーダ。

なぜオープンソースなのか?

田代:

経済産業省がオープンソースの推進に取り組んだのは、人材育成上、大きな問題があるという認識からでした。ソフトウェアの中身がわからないまま、それらの組み合わせだけをやっている人が増え、ソフトウェア技術者は創造的な仕事ではないという認識を持たれるようになった。その結果、コンピュータエンジニア系大学の定員が満たされない事態になり、人材育成に支障を来すようになったと言われています。

鈴木:

オープンソースを扱う人は、同じようなことを思っていました。OSの中身がわかる人がいないという危機意識が高かった。IT産業界では、コア技術をアメリカに握られているという意識がすごくありましたね。そうした背景の中、我々がLinuxのビジネスに力を入れ始めたのは1999年でした。1998年にマイクロソフトがオープンソースを調べたハロウィーン文書が表面化したことがきっかけでした。その文書によって、日本の産業界でもオープンソースが注目されたのです。翌年には日本で初めてLinuxWorldの展示会が開かれました。

田代:

経済産業省でも2003年初め頃から、Linuxをもっと積極的に導入する取り組みを始めました。その後、いろいろ足りない技術を開発しようと言い出して、3年間IPA(Information-technology Promotion Agency:独立行政法人情報処理推進機構)でオープンソースソフトウェア活用基盤整備事業を推進し、それが今年3月で終わります。その最後のところでオープンソースソフトウェア・センターの設立となったわけです。
 自然環境は万人が公平、平等に利用できますが、人工のソフトウェア環境はそうではありません。ソフトは特定の人間が作ったOSやミドルウェア環境の上でしか動かないからです。それが共有財産にならずに、いつも特定の者に属しているのは不自由です。さらに問題なのは、特許期間は20年ですが、ソフトの著作権の保護期間は50年と長い点です。独占している期間が長すぎる。また、特許では情報公開と引き替えに排他的な権利を与えていますが、ソフトの場合は単に権利があるだけで情報を公開する必要がない。とても不公平感がある。だから、基礎になっている部分を共有できる(オープンになる)ことを考えないと、我々はその上で安心して活動できません。これはオープンソースを推進する上で、大変大事な点です。

オープンソースのインパクトとビジネスモデルの変化

田代:

ヨーロッパではオープンソースの議論が活発です。各国の政府の調達をいかに公平にするか、蓄積する情報資産、国を超えて交換する文書の互換性をよく研究している。政府調達ガイドラインで、オープンソースを積極的に活用すべきというレポートが出たり、どういう形のドキュメントを蓄えていくべきかというガイドラインが出ています。それに基づいて、オープンソースを普及させるセンターがドイツにできました。政府内の情報システム、情報の公開の仕方、Web、そういうものを特定の会社に従属しない活動を、一所懸命やっています。一方、アジアでもオープンソース化は進んでいますが、安いものが欲しいという単純な理由が多かったりします。また、不正コピーソフト横行でWTOに加盟できないため、オープンソースを推進するということがあります。

鈴木:

オープンソースは今までのビジネスモデルと違います。従来は、自分の製品を売って対価を得るというビジネスでした。ところが、ニーズの多様化に応じて多品種少量生産になり、ビジネスも変わってきています。みんなが情報を平等に入手できるネットワーク社会になると、モノが流動化してきます。そんな中で、自社製品だけにこだわっていても、広がりがないわけです。今後も情報量は加速度的に増えていきますから、自分の世界だけでは生きられなくなる。オープンソース化は自然の摂理みたいなところがあります。
 従来型のビジネスに固執していては生きられませんので、我々も新しいモデルに移行しなければなりません。ただ、一気に変わるのではなく、従来型のビジネスも展開しながらということになりますが、世の中は変わっていくということです。ベンダーがオープンソースの中でビジネスを行う場合、形あるものを売ることから、サービスによって顧客に対する満足を提供するという意識改革が必要です。

田代:

オープンソース化が進むと、サービス産業化にビジネスのポイントが移っていくでしょうね。組み込みもそうですが、基層のOSはできるだけ多くの人が作り自社だけで囲い込まないようになると、上層のアプリケーションやデザインで勝負することになるはずです。ビジネスのポイントが上層に移る。メンテナンスしたりサービスする人がたくさんでてきて、その中で競争が生まれるわけです。そういう健全な競争があれば、それによってさらに価格が下がることも期待できます。

鈴木:

ベースといったコモディティ化のラインが変わるのは、ある意味では囲い込みの塗り替わりといえます。最初はOSで囲い込もうとし、その次にはアプリケーションサーバーで塗り替えようとし、今度はツールで塗り替えようとしている。結局、企業ですので、なんとか囲い込もうとするわけです。

田代:

創業者利益はあって然るべきだと思います。新しいビジネスを切り開いた人には、ちゃんとリターンがあるべきです。でも、いつまでも囲い込まれると地球にとって嬉しくないということです。

鈴木:

塗り替わっていくということは、成長しているということですね。より上層レイヤーに移っていけるということは、サービスの質も上がるということです。サービス産業は時代と共にサービスが向上していく。サービスが向上していくためにはコストを下げないといけないので、従来型のビジネスの領域の利益に固執してはいけないわけです。そういったところを土台にして、次のところに利益の源泉を求めて発展させないと次のステージに行けない。

オープンソースの普及を促進する評価基準づくり

鈴木:

ビジネスの分野では、オープンソースのハイエンド化と裾野の拡大という流れにあります。Linuxは世界的なサーバー分野で14%位にまで普及してきました。最近はミッションクリティカルな領域で使いたいという要望もかなり出てきています。そうしたハイエンド分野では、カーネルを強化するといった従来の商用OSが歩んできた道と同じことが必要になる。ダンプ機能、システム障害対策の機能や障害を解析して早くリカバリできる技術の開発です。それは我々がずっと培ってきた技術であり、Linuxにも取り入れています。かなりレベルが上がってきていますので、ミッションクリティカルな分野にも通用できるレベルになりつつあります。
 もう一つは裾野を拡げるという部分。日本ではWindows技術者の比率が高く、そういった技術者にもLinuxなどのオープンソースを積極的に活用するようになって欲しいと思います。LPI (Linux Professional Institute:特定非営利活動法人/Linux 技術者認定機関)※1の認定試験普及もその一つで、国際的な認定資格制度を設けることで、UNIX系技術者にも技術力を評価される機会を与え、資格の普及を通して技術者の育成を推進しています。また、OSDL (Open Source Development Labs, Inc.:Linuxの成長とエンタープライズでのLinux採用を促進するNPO)※2では、参加企業の有志により、2005年 2月にSI Forumを立ち上げ、現場のシステムエンジニアやシステム管理部門の人たちが、Linuxやオープンソースを活用する時に感じるハードルを下げるために役立つ情報を提供しています。特にWindowsの技術者に早くLinuxを使えるようになってもらうために、「Linux/OSSの歩き方」や「Windows技術者のためのLinuxの概念と操作」といったドキュメントを作っています。Windows技術者がいかに早くオープンソース技術を理解できるか。「これだったら大丈夫」と思えることを目指しているドキュメントです。

田代:

さらに、オープンソースを利用してもらうには、システム評価の基準作りが必要です。これについてはすでにIPAの事業として取り組んできています。先ほど、ミッションクリティカル分野に広がっているという話がありましたが、どのくらい性能が出るものなのか客観的に測れるツールや方法論が必要だからです。オープンソースを導入する際、「SIベンダーは大丈夫と言うけれど本当か」と、セカンドオピニオンを聞ける環境がありません。オープンなだけに、客観的な評価法は可能です。評価のツールや方法論、評価結果を公開していくということですね。カーネル自体の性能ももちろん重要ですが、使い方のチューニング効果も大変高いようです。そういったことへのノウハウを蓄積するためにも評価はすごく大事だと思います。

鈴木:

それは、Linuxもステージが変わったということですね。最初の頃のLinuxは、Webサーバーやメールサーバーなど、単機能サーバーに使われていた。業務システムに使うには、ミドルウェアというデータベースのソフトとか、Webサーバーのソフトも一緒に使わないといけないわけです。それもオープンソースという話になると、それぞれきちんと評価されていないと業務システムには使えない。
 業務システムでは、どれくらいのボリュームのサーバーを用意すればいいのか、どれくらいの負荷を見込めばいいのか、そういうことがわからないとシステムのインテグレーションができません。我々SIベンダーはサイジングデータと言っていますが、どれくらいの規模のシステムを作らないといけないかという基礎データが必要です。そういう意味でも、IPAの事業として各企業と共に取り組んでいるシステム評価の基準作りは大切なことだと思います。

オープンソースの賢い利用法と今後の課題

田代:

ユーザーはどうしても短期的な視点でコストを考えがちですが、もう少し長期的な視点も欲しいと思います。特定の製品にディペンドしているデータを使うのではなく、もっと標準的なデータを使えば、長期的にはコスト負担は軽くなるはずです。たとえば、Webサイトから発信されるデータがW3C 標準だけであれば、それを閲覧するために使うアプリケーションの選択肢は広がります。拡張した機能を使うと選択肢が狭まる。それは将来的に見ると、大変コストアップにつながるかもしれません。なるべく選択肢を広げるような方法で、調達することを意識すべきだと思います。

鈴木:

もっとユーザーにも標準や、オープンソースシステムへの理解を深めて、活用していただきたいというのもありますが、お客さまには、自身のやるべき事業にもっと注力していただけるようになればと思います。そのためには、我々SIベンダーもお客さまを理解し、お互いにきちんと分担できる形になっていくことが必要ですね。業務プロセスに依存する本当のコアなところは、お客さま自身で設計できるようなシステムを提供できることが望ましいと思います。ただ、自分のプロセスをよく理解されているお客さまもいれば、自分たちがやりたいこと自体をなかなか理解できないお客さまもいらっしゃいます。我々はそういう方たちでも、新しいITの技術を生かして、自分たちの価値を高めたり、自分たちの事業を発展させていけるようにしたと願っています。そのためには、自分の業務プロセスのところまで投げ出さないように、自分たちでしっかり考えて作っていくところに目を向けて活用して欲しいと思います。

田代:

今、IPAでも地方自治体へのオープンソースの導入実験をやっていて、二宮町をNECさんにやっていただいています。さすがに実証実験に参加しようとしている人はITを非常に良く理解していて、かなり自分たちでも取り組んでいます。ところが、そういうところばかりではなく、ベンダーに丸投げしているところもあります。ベンダーとユーザーが対等な関係で切磋琢磨することが大切でしょう。
 今後オープンソースが一層普及すると、脆弱性問題が顕在化してくるだろうと危惧しています。オープンソースは、皆がソースを見ることができチェックできるので比較的安全だという議論も一時あったのですが、これは脆弱性がないという証にはなりません。今後ビジネスでの利用を広げるには、脆弱性をきちんと解決していく必要があります。そこで問題になるのが、脆弱性情報は対策ができる前は秘密にしなければならないという点です。オープンに使われているソフトに対して、秘密をどうやって適用するのか、そこがちょっと難しい。センターとして取り組む必要のあるところです。

鈴木:

サポートやセキュリティ面は我々も非常に気にするところです。Linuxはそういう体制が徐々に整ってきており、他社とも一緒にできる形になりつつあります。我々のところではLinux以外のオープンソースについてもサポート体制を作っていますが、今後オープンソースがどんどん増えていったとき、1社で支えられるかという問題があります。業界でそういう問題を解決していかなくてはならないと思います。
 今後は、いかにオープンソースを自社のサービスにきちんと組み込んで展開していけるかがキーとなります。お客さまに高い満足度をお届けするのが我々の役割ですから、オープンソースを使うだけでなくお客さまの目的を果たせないと意味がありません。商用製品を使うのと同じだけのサービスをきちんと届けられるようにしなければなりません。そのために、技術の蓄積、お客さまに対するサービス、展開する業種業務のソリューションを充実していきたい。その中にオープンソースが入っていても、表に見えるわけではなくて、それを使っていることでコストが削減できたり、システム障害が発生したときに我々の力で物事を早く解決できたりできるように、今後も努力していきます。

田代:

先ほどおっしゃった、利用者も自分の業務にITがどう使われるか理解して欲しいという話がありましたね。皆でITをわかり使い方も含めて理解して、いろいろな意味でのベネフィットについて長期的な視野も含めた判断をして欲しい。広い視野で選択肢を考えて欲しいと思います。そのためにIPAとしては、本当にオープンソースに安心して任せられるような環境づくりを行っていきたいと考えています。

鈴木:

オープンソースの世界では、我々と同じ情報をお客さまも入手できますので、お客さまもぜひ技術を見る目を育てていただきたいと思います。言い換えれば、オープンソースはユーザーが主導権を握るチャンスでもあるわけです。名前だけのベンダーではなくて、しっかりしたベンダーを見極められるように力をつけることが大切です。それが自社のビジネスリスクを回避して、業績を伸ばすことにつながります。ですから、お客さまにもオープンソースにもっと目を向けて、そのメリットを得ていただければと思います。

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