対談・座談会
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逆境こそビジネスチャンス。ITで業務プロセスの改革を

資材価格の高騰、公共事業の予算抑制、工事進行基準への対応、さまざまな法規制など、建設業界を取り巻く環境は依然として厳しい。こうした逆境を乗り切り、新しいビジネスチャンスを創出するため、建設業界では従来の現場主導の業務プロセスを見直し、会社全体のガバナンスをあげていく必要性が叫ばれている。この流れの中でITにできることとは何か? 建設業の業務プロセスのIT化について豊富な経験を持つ株式会社CIラボ 代表取締役 山下純一 氏とNECソフト株式会社 製造プロセスソリューション事業部 事業部長代理 成田清威、同事業部 営業・コンサルグループマネージャーの山本賢司がIT化への課題と可能性について語り合った。
- プロフィール
山下 純一
1965 年4月、株式会社フジタ入社。1998年6月、株式会社フジタビジネスシステムの代表取締役に就任。2004年5月、有限責任中間法人IAI日本の代表理事に就任。2006年4月、株式会社CIラボを設立。CI-NET政策委員、生産設計情報化評議会 運営委員長、建設情報標準化委員会 委員、電子入札国際標準化委員会 委員、UN/CEFACT TBG6副議長を務める。
成田 清威
1981年4月、NECソフト入社。製造業向け生産管理業務のシステム開発などに携わり、1985年からACOS-4系テクニカルサポート、建設業向けシステム構築に従事。その後、2004 年から環境Eビジネスグループマネージャーとして、製造プロセス業を中心とした環境システム、EDI関連のマネジメントを実施。2007年製造業、建設業、プロセス業を担当分野とする製造プロセスソリューション事業部 事業部長代理として民需系マーケットの組織運営に携わる。
山本 賢司
1983年4月、NECソフト入社。製造・建設業マーケットを中心にCADシステムの開発、サポートを担当。その後NECに出向し、建設業マーケットでのセールスサポートを担当。同時にIAI日本、建設業振興基金、JACICにて建設業界での標準化活動にも参加。2003年に復帰し、継続して建設業マーケットのシステムサポートを担当。2006年よりEXPLANNER/Cの製品全般のマネジメントに従事。現在は営業・コンサルグループで建設、製造、プロセスマーケットを担当。
厳しいとはいえ建設業界は50兆円規模の巨大産業
- 成田
NECソフトが建設業界に関わって約25年になります。バブル景気のころ、多くのITベンダーが建設業界に参入しましたが、その後の景気低迷の中、その多くが退場していきました。そうした業況の中、建設業をNECソフトのコア業種として、継続して業界対応をさせていただいております。
とはいえ、現在の建設業界を取り巻く環境は、依然として厳しいものです。国際会計基準からはじまって、さまざまな法規制、資材価格の高騰、公共事業の抑制など、仕事が減少していく中で、法規制への対応、業務の効率化が求められていると認識しています。こうした環境の中、建設業界が対応すべき課題はどのようなポイントでしょうか。
- 山下
建設業の市場規模は、最盛期で90兆円近くあったのが、昨年は50兆円程度になったと言われています。半分近くまでマーケットが縮小したわけです。しかし、厳しいのは建設業に限ったことではありません。先日も原油がストップ高をつけるなど、資源国が元気になる一方で、資源を使う日本のような国がどんどん厳しくなるという状況です。そうは言っても、50兆円もあるマーケットは、そう多くはありません。
確かに、ご指摘のように建設業界を取り巻く法規制が厳しくなっているのも事実です。しかし、拘束が厳しくなるということは、それを逆手にとれば、大きなビジネスチャンスになると思います。
私は現在、建設業界の建物モデルの相互運用を実現するために必要な標準規格の策定を行う有限責任中間法人IAI日本(International Alliance for Interoperability Japan Association)という組織の代表理事をやっています。そこでは、3Dのオブジェクトモデルの交換標準策定に携わっています。
このモデルを使うと、たとえばCO2の排出量、熱負荷やエネルギーの使用量などを計算し、建物の性能を事前に評価できます。現実に、海外の発注者は、こうした性能評価を始めているのです。現在の石油価格の上昇や食糧危機の状況を見ても、省エネルギー、サステイナブル(持続可能)、エコロジーは、国際的なキーワードであり、早晩日本でも建設物の事前評価が求められるようになるのは間違いないと思います。国内の建設会社も、こうした要求や変化にいち早く対応することが、会社を成長させることにつながるのではないかと考えています。
適正な経営・管理体制があってはじめてITシステムが活きる
- 成田
業界の特徴の1つとして、現場への権限委譲が大きい、現場主体の経営スタイルがあげられるのではないかと思っています。
その中で、昨今の法規制の厳格化、株主重視の流れを見ると、会社としてのガバナンスも無視できないのではないでしょうか。
- 山下
多くの建設会社は「現場」という小さい事業部門が集まって支店という事業部門を構成し、その支店という事業部門が集まって会社全体が構成される、といったモデルになっています。そして、それぞれの事業部門によって利益を出すところもあれば、そうでないところもあり、全体としては利益を出すところが多いので、会社が成り立っているというイメージですね。これは長い間続いてきた経営形態なのですが、「本当にこれで良いのか?」という議論は以前からありました。
実は、従来はそういう経営をしても、リソースに困らなかったという背景があったのです。資金というリソースを見ると、建設会社はある意味では金融的な役割を果たしています。発注者から入るお金があれば、協力会社に支払うお金もあり、必ずしもタイミングが合うとは限りませんので、ある程度の資金を持って運営していく必要があるからです。
昔は銀行から比較的自由に資金が借りられましたから、資金ショートをそれほど心配する必要はありませんでした。しかし、今は違います。銀行はそう簡単には資金を貸してはくれません。となると、一定の資金の中で運営していかなければなりません。必然的に、会社全体で資金の動きを見る必要があります。いつ、どのプロジェクトが終わり、いつ資金が回収されるのか、といった全体を見るシステムがないと危険なのです。そこにITを活用することは、ごく自然な発想だと思いますね。
- 成田
他の業界では、ITベンダーがSAPをはじめとした外資系のERPパッケージを導入して業務改善を実現しているという事例が多く見受けられますが、建設業界では、海外のパッケージを導入し、そのまま適用するケースは少ないようですね。
- 山下
ERPはEnterprise Resource Planningの略ですから、まさに私がいまお話ししました「会社全体のリソースを適正に配分するシステム」ですね。ただし、いかにパッケージが優れていても、それを活用できるかどうかは、また別の問題です。建設会社の経営と管理のシステムがパッケージのシステムにマッチしているかどうかを考えると、なかなか厳しいのが現実です。
建設業の場合、たとえば工事の進捗に伴って材料購入などでお金が出ていきます。これを「未成工事支出金」と称し、仕掛品として仕訳して賃借対照表(バランスシート)に記載しています。つまり、会社の資産として仕訳しているわけですが、決算期がくると、今度はこれを工事原価として損益計算書に振り替えます。ところが、期中で工事が完了しても、ほとんどの会社が、損益計算書に振り替えていません。つまり、期中で損益計算書を見ても、損益がわからないのです。これは他の業種ではありえないことです。精緻な会計の仕組みがあっても、それを使いこなせる体制は十分ではないのです。
資金や購買に関わる業務は中央で管理するのが望ましい
- 成田
なるほど、システムよりも体制がキーポイントなんですね。体制という点では、建設プロジェクトには、常に人が関わっているというのも特徴でしょうか。協力会社を含め、人が設計し、人が施工して、人が検査、監理……という業務スタイルの中で、人の意識を変えるということが重要ではないかと感じるのですが。
- 山下
確かに、建設業では人が常に関わってきますね。建設業では、それが発注者でも、ある意味では建設クルーの一員です。
たとえば、クルマを買うとき、販売店に行って、展示車を見て、触って、試乗して……となるわけですが、買う側、つまり発注者は生産に関してはまったく関与していません。ところが、建設業はオーダーメイドですから、そこには必ず発注者の意思が入るわけです。さらに設計事務所、ゼネコン、サブコン、メーカーなどが加わり、混成部隊によってプロジェクトが動いています。この混成部隊の一員が他の構成員に影響力を行使して、従来の仕事のやり方を変えられるかといっても、そう簡単でないのは容易に想像できます。
しかし、方法はあるんじゃないでしょうか。たとえば、何もかも現場に任せるのではなく、お金に関しては全社的な管理をしていくべきです。購買もそうです。全体として見ると、購買部門のある建設会社はまだそれほど多くありません。あっても、かなりの割合で現場が購買しています。モノを買うというスキルは、価格も含めて、頻繁に買っている購買部の方が現場より上のはずです。購買部があるなら、モノを買うという業務に関しては、購買部が行うべきだと私は思います。
- 成田
現場にもある程度の権限を与えて管理を分散しながらも、全社で情報共有を行い、集中管理できるような仕組みが望ましいということになりますね。
- 山下
そうです。たとえば、建設業では当月の利益という考え方はありません。もちろん予算はありますが、それはプロジェクトが終わるまでの予算です。理想的には、プロジェクトが進行していく中で、今月は利益が出たとか損失が出たといった報告が上がってくるべきですが、現実にはそれは困難です。そのため、工事が終わったときの損益をあらかじめ見通す能力が重要です。ただし、現場の所長の見通しが本当に正しいかどうかは、中身をしっかり精査しなければわかりません。となると、精査できるだけの材料が必要です。ITを使うことで、その材料を共有できるはずで、それは極めて重要な仕組みなんですね。
建設業務パッケージやSEに求められるもの
- 成田
当社は「EXPLANNER/C」という建設業向けの業務パッケージを提供していますが、業界のパッケージやSEとして求められる点についてお伺いいたします。
- 山下
パッケージというのは「ある業種の共通項をまとめたもの」と言えますが、一般社員にとって便利な機能が経営層にとって有益かというと、そうでない場合もあります。逆に、経営層に必要な機能をシステムに実装すると、使っている一般社員の負担が大きくなったりしますので、そのあたりのバランスが大切ですね。
また、業務パッケージの機能とは直接関係ありませんが、建設業の場合、組織の中でITシステムの発注に関わっている人は、それほど多くないことにも注意が必要です。そのため、発注側の担当者が「こうしてください」と言っても、それが本当に発注した会社の意図なのかどうかは、実はかなり判断が難しいケースがあります。
その意味では、ITのプロジェクトリーダーは、発注側の本当の意図・意思といったものを敏感にかぎわけることが必要だと思います。これを誤ると、言われたことをすべてプログラムに反映したのに、使ってもらえないということになりかねません。
- 成田
当社で建設業を担当しているSEは、現在40~50名いるのですが、彼らが経営者と現場、それぞれの立場に立って、どういうものを作っていくべきかを一緒に考えていくことが重要だということですね。
- 山下
それは何も建設業だけの話ではありません。別の業界でも同じなんですね。建設業だから難しいということは、決してないと思いますね。
業務プロセスを提案するコンサルティング的な役割も必要
- 山本
バブルのころは、建設会社も資金が豊富だったこともあり、独自性を出したシステム構築を実施しているところが多かったように思います。しかし、最近は「他の会社はどうしているの?」という隣の芝生的な話をよく聞きます。「失敗したくない」という気持ちが強いのでしょうか。
- 山下
昔は、新しいシステムを構築して新聞発表するとき「他にないシステムを作りました」と自慢したものです(笑)。ただ、「作りました」で終わりで、結果的には使われなかったシステムもあったと聞いています。しかし、そういう時代は過ぎ去りました。今は、使って利益に貢献する時代です。そのため「こうすれば絶対にいいはずだ」と自信を持って発言するのは大変ですね。だから「他社はどうなっているの?」となるのかもしれません。実際は、どのゼネコンでも、やれることは似たようなものなんですが。
- 成田
法改正をはじめとする環境変化の中で、建設会社自身がどうやったら業務の進め方、あるいはリスクを伴う慣習といったものを変えられるのか模索しているようにも感じられますが。
- 山下
そうですね。その意味では、NECソフトのようなITベンダーは、業務パッケージとともに、業務プロセスも提案していくことが求められているのでしょう。厳しい環境ですから、建設会社の情報システム部門もかなり人が減らされています。キャリアのある人も減っています。今でこそ、情報システム部門は会社の経営の一翼を担うくらい重要だと言われていますが、では、情報システム部門にいる人が、そのためのトレーニングを受けてきたかというと、必ずしもそうではありません。あくまで、支援スタッフ的な役割を果たしているケースが多いのです。
- 成田
社会全般的に、経営に対する情報システムの役割が高まっていますが、かつては個々の現場の効率を上げるためのツールであったのは確かですね。情報システムに対して、情報システム部門の方、経営層の方、現場の方が、それぞれの立場での思いを持たれているように思います。
- 山下
そういう意味では、今後は、SEの方にもコンサルタント的な能力が要求されると思います。コンサルティングといっても、細かい手続きを決めるというよりは、顧客となる会社の方針や合意をしっかり形成するような役回りが要求されるでしょう。ただし、そうしたことができるITの優秀なプロジェクトマネージャーは、まだまだ少ないかもしれません。
- 成田
コンサルティング力は、当社としても強化すべき領域と認識しています。コンサルティングを実施するためには、経験や知識の他、経営的な観点での業務プロセスを見る資質も必要ですね。
- 山下
コンサルティングの能力は今後、ますます重要になっていくでしょう。先ほども出ましたが「これを作ってくれ」という会社が減り、「他社はどうなっているの?」という会社が増えてきたということは、「どうすればよいかわからない」という会社が増えているからです。業務パッケージを導入しても、それをどう使えばよいか、わからないわけですね。それを提案していくことも、今後は重要になっていきますね。
- 山本
確かに、パッケージを導入していただいたあと、そのパッケージを有効活用していくことを提案・誘導していけるスタッフは少ないですね。お客さまに「合わせてください」と言ってしまえばそれまでなのですが、お客さま自身、今の業務をどうやってそのパッケージに合わせるのかがよくわからないという状況ですから、そこを提案していく必要性は感じています。
- 山下
それは、ぜひお願いしたいですね。本来でしたら、そこは情報システム部門が担当すべきなのでしょうが、先にも言いましたように、建設業界の情報システム部門はかなり人が減っています。しかも、さまざまな法規制や新しい会計制度への対応など、情報システム部門へのプレッシャーは、ますます高まっているのです。NECソフトには、ぜひこうした観点からも、建設業界をサポートしていただけるとうれしいですね。
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