対談・座談会
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不況のときこそ、経営課題を見直しスタートダッシュに備える

依然として厳しい状況の続く世界経済。その一方で、この不況期に自らの経営課題を見直し、ITを武器に景気回復期に向けて着々と備える企業も徐々に現れてきている。いま、企業はどのようにこの経済環境と向き合い、どのような基盤作りに取り組むべきか?企業におけるIT活用をリサーチする伊藤未明氏と、NECソフト 執行役員常務の吉村政幸が対談した。
- プロフィール
伊藤 未明
IDC JapanにおいてITサービス、特にWebサービスやeラーニングなどのエマージングセグメントの調査を行っている。また、国内の主要ITベンダーのサービス分野別売上動向や顧客業種別ITサービス動向の調査・分析、市場予測を行う。IDC入社以前は、大手ユーザー企業でSEとしてデータベースの設計・開発を担当、また顧客情報データベースのモデリングから実装までを指揮する。
吉村 政幸
1976年NECソフト入社。OSの開発で開発者人生をスタート。この間、簡易TSSの開発、分散運用管理システムの開発、EC/EDIの開発、EIAJ(JEITA )のEDIプロトコルの規約制定等に従事。その後、開発系事業部長。2006年より、執行役員として支社運営を経験。2009年より執行役員常務として、現在、第三ソリューション事業本部および品質保証部、生産技術部、生産革新室を分担。
ITのためのITから経営のためのITへ
- 吉村
現在の経済状況が不透明なのは間違いなく、それにともなって全体的なIT投資も絞られていることも確かです。ただ、IT投資について、お客さまの考え方が変わってきているのを感じますね。
従来に比べてパッケージの購入においても、経営課題を解決するうえで必要なものだけを厳選して買うようになりました。
- 伊藤
3、4か月前とは少し様子が変わってきているのは確かで、本当に底を打ったのだとしたら、いまのうちに手を打つべきと考える企業が増えてきています。うまくチャンスをつかむ企業というのは、本当のピンチを脱しはじめたタイミングをうまく見抜き、早めに手を打っているように思われます。
- 吉村
弊社の製品やソリューションの選ばれ方に関しても、いま、業務系システムを改善することで、不況を脱したときに備えているお客さまがいるということです。たとえば、レガシーマイグレーションにしても、従来はコスト削減のための手段として使われるお客さまがほとんどでした。しかし、最近ではコスト削減より、経営課題を解決する道筋としてマイグレーションを行うお客さまが出てきています。グローバル戦略を展開するにしても、新しいツールが豊富なオープン系に移行しておいたほうが新しい機能を利用してシステムを構築しやすくなります。
- 伊藤
企業メンタリティの変化は、深く静かに進んでいるようです。これまで国内企業の多くは、IT投資を経費と見なして積み上げ型で予算を作っていました。これだと、前年と同じことをやるだけになってしまいがちです。これからは経費という一次元だけで考えるのではなく、ハードやソフトがどう経営課題を解決するのか、リスク、セキュリティはどうかなど、さまざまな次元で検討を行い、投資の優先順位を決めるようになるでしょう。
- 吉村
本来、ITは何らかの経営課題を解決する手段であったはずです。ところが、IT自体が技術課題になってしまい、それを解決するために右往左往してしまっていたのが、ここしばらくの状況だったということでしょう。目的と手段を取り違えていたのです。ここでもう一度、ITを手段として見直し、将来への準備をすべきではないでしょうか。
- 伊藤
これまではITのためのITになってしまっていたということですね。ただ、1つ問題なのは、経営のためにITをどう使うかを判断できる人材は限られているということです。そういう優秀な人は現場がなかなか離してくれず、開発や運用の仕事に忙殺されています。そこで、ITベンダーによるコンサルティングが重要になってきます。ITベンダーはさまざまなプロジェクトを見ていますから、「いまの段階でここまで具体化していれば、このソリューションで5年は大丈夫」とか「ここが明確化できていないと、翌年にはもう行き詰まる」といった判断ができるでしょう。こうしたノウハウは、ユーザー企業が経営のためのITを実現するのにとても役に立つはずです。
- 吉村
私どもからお客さまに「コンシェルジュ」とでもいうべき専門スタッフを送り込むのもその1つです。一般的なコンサルタントとは異なり、コンシェルジュは長期にわたってユーザー企業内で働き、お客さまからさまざまな課題をぶつけてもらい、そうすることによりお客さまも私どももじっくり時間をかけて経営課題を整理することができます。景気が良いときは、お客さまも経営課題についてじっくり考える余裕がなく、目の前の課題を解決するソリューションだけを求めます。逆に、いまのような状況のときは、お客さまと私どもと一緒に考える時間に余裕があります。レガシーなシステムも含め経営課題を整理する機会として活用するのがよいと思います。
「時間に余裕があるいまを活用」して企業活動の見直しを図る
- 伊藤
最適なITソリューションというのは、コスト面だけでなく、いろいろな次元から見てトータルで判断する必要があります。その価値をユーザー企業に納得していただくために、ITベンダーにも複眼的な視点が求められるでしょう。
- 吉村
その点について私が考えているのは、企業活動の見直しです。70年代以降の日本企業は猛烈な勢いで走り続けてきましたが、はたしてこのスピード感をいまの時代も維持するべきなのか?
これまでの生活を見直す「スローライフ」という言葉がありますが、同じように企業活動にも見直しが必要なのではないでしょうか。
- 伊藤
私も同じ考えです。こう言うと誤解されるかもしれませんが、不況というのは悪いことばかりではありません。生活や企業活動のスタイルを変えるきっかけとして、不況を活用しましょう。吉村さんがおっしゃるように、企業も単年度での売り上げに一喜一憂するのではなく、長期的に価値を提供できるビジネスを作っていくべきです。その中には、顧客や従業員の満足度を向上させることも含まれるでしょう。アメリカ型経営が崩壊したとまでは思いませんが、あまりにも株主重視になって、単年度ごとのリターンを求めすぎるのは問題です。
- 吉村
私が常々考えているのは、ITははたして人を幸せにしたのだろうか、ということです。確かにいままで丸一日かかっていた仕事が、ITのおかげで1時間で終わるようになりました。この余裕をどう利用できるかです。ITによって企業で働く人も働きやすくなり、余裕が生まれるべきです。
- 伊藤
ITが家庭に入り込んだことで、個人の情報収集能力は上がり、生活を便利にしたことは間違いありません。しかし、それと会社で働く人のメリット・デメリットは違いますからね。いまの働き方に応じたルールやITシステムを構築する必要があるでしょう。
- 吉村
それに関連して言うと、私どもは、ユーザーインターフェースを重視した技術開発にも力を入れています。使いやすいユーザーインターフェースを提供することで、働きやすくなり、間違いが少なくなる。企業にとっては効率性が確保でき、働く人もその恩恵が受けられるようになるわけです。レガシーシステムからのマイグレーションには、こうした利点もあることを知っていただきたいですね。
- 伊藤
テクノロジーを活かして、社員の負担を減らすことは、広い視野を持った人材を育てることにもつながります。「あの部門とこの部門のビジネスプロセスをつなげたらどうなるか」、さらには「この部署と子会社のプロセスをつなげるのはどうか」。そうした発想のできる人材は、これからの時代、とても重要になるはずです。
- 吉村
一言でいうと、「隣の芝生が気になって仕方がない人材」ですね(笑)。自分の部署だけにとらわれず、隣の部署がどうなっているのかもついつい尋ねてしまう。よい意味でのお節介を焼ける人材が増えてくると、企業活動は変わっていくように思います。
新しい時代に対応できる足腰を鍛える
- 吉村
この不況を乗り切ったあとの世界は、これまでと大きく変わってしまう可能性が高いでしょう。どういう世界になるか、正確に予測できる人はどこにもいません。だから、この不況期こそがチャンスともいえます。競争相手も動きを止めているかもしれませんから、その間に一歩でも先んじておくことができます。先にも申し上げましたが、この先の準備という点でマイグレーションが重要になってきます。
- 伊藤
マイグレーションといっても、その内容は多岐にわたりますね。メインフレーム上で稼働しているプログラム全体をオープン系システムに移植する大がかりなマイグレーションもあれば、データベースだけをほかのツールからでも活用できるようにする方法もあります。
- 吉村
私はよく「リフォーム型」のマイグレーションという言い方をするのですが、これはつまり、家の中で一番よく使う場所を最初にリフォームして、お金が貯まったら次の部屋に取りかかるようなものです。たとえば、将来的に汎用パッケージを使いたいから、いまのうちにデータベースだけでも移行しておく、という具合ですね。
- 伊藤
私も、こうしたマイグレーションは優先順位をつけて段階的に進めていけばよいと思います。もちろん、将来的な構想をかっちり描けるなら一気に移行してしまう方法もありますが、そうでないなら自社のビジネスの状況を踏まえ、順を追って進めるべきです。変化の激しい世の中ですから、描いていた構想が実情と合わなくなったら、そのときどきに応じて変えればよいだけです。ちなみに、メインフレームからオープン系へのマイグレーションの現状や対応はどうでしょう?
- 吉村
レガシーからのマイグレーションについていえば、弊社にはメインフレームとオープンの両方の知識をしっかり備えた技術者がいますし、データベースの変換や画面を作り替えるノウハウも蓄積されています。レガシーをやっていた技術者がオープン系も手がけていますから、どうマイグレーションするのが一番近道かをよくわかっているのが強みです。弊社は2003年からレガシーマイグレーションを本格的に手がけるようになりましたが、そのころに比べると現在の生産性は10倍になっています。もともとのプログラム構造を大きく変えるのでない限り、予算と納期を明確にして短期間にマイグレーションを行えます。
- 伊藤
いままでの企業は、「コンピューターシステムはこうでなければならない」と思い込んで、前の年と同じことを毎年繰り返していました。けれど、不況で予算が少ないなら、コンパクトにできることをいろいろと試してみるのがよいでしょう。データベースだけはオープン系に移してみる、安価なホスティングサービスを試してみる、オープンなシステム同士を連携させてみる。実際に試してみると、そこからさらにいろいろな発想が生まれてくるはずです。どんな経営課題のためにやっているのかという意識を常に持ちつつ、ITをダイナミックにコントロールするのが、不況の「よい過ごし方」でしょう。
- 吉村
いままでですと、「あれをやれ」「これをやれ」と言われる企業の情報システム部門は何かと忙しく、プレッシャーは大変なものだったと思います。しかし、いまは、これまでに比べ時間に余裕を持って、落ち着いて考えられるようになったともいえます。こういう時間を有意義に使い、経営課題を見つけ、じっくりと戦略を練ると良いでしょう。そうすることで、景気が回復したときのスタートダッシュにつながります。
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